作文のすすめ
一般に文章表現力の高い子どもは、文章を書くことが好きだと考えられがちですが、実際の調査によるとその関わりがそう強いものではありません。ただ、文章表現に対する苦手意識が高い子どもは、自分の書いた文で相手に気持ちが伝わったという経験がないため、書くことが嫌いになってしまっている傾向が見られます。作文指導では、書く機会をできるだけ多く与えて、慣れさせると共に書いた文で自分の気持ちが相手に伝わったという成就体験をさせることが有効です。また、文章を書く目的や書いた文章が誰かの役に立つということを示すことで、書く意欲を高めることができます。
下の表は、小学校の先生たちが調べた文章表現力と子どもの行動の関係を示したものです。書く力を持った子どもは、自分の意志をしっかり持ち、自立的な生活習慣が身についていることを表しています。このことから、文を書く力をつけることと自立心の養成とは表裏一体の関係があることがわかります。
項目 | 相関値 |
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考えなどをはっきり述べる | 0.725 |
自立的な生活習慣 | 0.674 |
係活動への参加態度 | 0.527 |
積極的な態度 | 0.509 |
発表力 | 0.387 |
交友関係の広さ | 0.365 |
自他の尊重 | 0.324 |
行事への参加態度 | 0.288 |
文を書く力が身につくと算数の学力が伸びることをご存じでしょうか?
下の表は、文章表現力と国語以外の教科の学力との関係を示しています。主要5科目すべてにわたって力がつくことがわかります。中でも「数学的な考え方をする力」や「観察実験力」などは、中学高校における理数系教科への積極的な学習姿勢に結びついている傾向が見られます。
項目 | 相関値 |
---|---|
<算数> 数学的な考えをする力 | 0.709 |
<理科> 観察実験力 知識・理解力 | 0.694 0.692 |
<社会> 資料を活用する力 | 0.688 |
<音楽> 音楽への関心・態度 | 0.682 |
<図工> 絵画・彫塑 | 0.671 |
文章の上手下手はどのようなところで決まるのでしょうか?
下の表は文章表現のつまずきや文章表現力の遅れの要因となっている項目を表したものです。
項目 | 相関値 |
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事象を客観的に文章に書き表すこと(A) | 0.646 |
場面や情景を思い描くこと(B) | 0.585 |
学習した漢字を文章の中で使うこと(C) | 0.516 |
叙述の仕方について一層工夫をすること(D) | 0.457 |
文章がうまく書けない要因とそのような作文の特徴は以下の通りです。
要 因 | 作文の特徴 |
---|---|
事象を客観的に文章に書き表すこと(A) | 生活文において事柄の説明が書けていない。見学に行った報告文などでは、資料からわかったことや見たり聞いたりしたことが書けていない。内容のまとまりなどによる段落意識がない。 |
表現に即して、場面や情景を思い描くこと(B) | 「したこと」の羅列になっている。段落がなく、だらだらした文で、自分の感じたことや考えが書けていない。 |
学習した漢字を文章の中で正しく使うようにすること(C) | 全文を平仮名で書いてしまう傾向がある。語彙が少ないため漢字を使う必要がない場合が多い。原稿用紙の使い方や句読点の使い方を十分に理解していない。 |
自分の書いた文章を読み返して、間違いを正したり、よりよい表現に書き改めたりすること(D) | 句読点や誤字・脱字が多くみられる作文である。同じ語句が何度も使われている。書き直すように指示すると、言葉をいいかえるだけで表現の工夫や構成の再考は見られない。 |
文章表現力を伸ばすには上記の4つの能力を開発することが効果的であることがわかるでしょう。そしてそれは、適切な作文指導によってめざましく改善されます。
子どもはだれでも好奇心に満ちており、感じたこと、思ったことを誰かに伝えたい、誰かにわかってもらいたいという強い欲求を持っているものです。作文指導によって、それを表現する方法、より正確に伝える方法が身についていくと、子どもは自らすすんで文を書くようになります。
作文はかまえて書くものではありません。日常生活の中に課題は無数にあります。優れた作文指導は、一人ひとりの子どもを理解し、その子の頭の中にあることを適切に表現する方法を子どもといっしょに工夫していこうとする姿勢を身につけた添削者とのコミュニケーションでもあるのです。
※資料は大阪市小学校国語教育研究会著「文章表現のつまずきの分析と治療指導」(明治図書)より